ピロリ菌とは
強酸の胃の中に住み着くことができる細菌で、慢性的な炎症を起こして粘膜に潰瘍や萎縮を生じさせます。世界保健機関(WHO)の専門組織「国際がん研究機関」では、全世界の胃がんの約8割がピロリ菌感染を原因として生じていると指摘しています。
感染は主に幼少期に起こるとされていて、衛生環境の悪い地域の感染率が高く、先進国では減少傾向にあります。ただし、日本は現在も高齢者を中心に感染者数が比較的多い状態が続いています。
家族に胃がんやピロリ菌感染陽性になった方がいる場合、感染している可能性があるとされています。
ピロリ菌感染検査
胃カメラ検査の際に採取した組織を調べる検査と、それ以外の検査があります。
なお、健康保険適用の除菌治療を受けるためには胃カメラ検査による胃炎などの確定診断が必須となります。
胃カメラ検査時に行う感染検査
胃カメラ検査の際にスコープの先から鉗子を出して組織を採取し、それを調べてピロリ菌感染の有無を確かめる検査です。
迅速ウレアーゼ試験
ピロリ菌は、ウレアーゼという酵素によって強いアルカリ性のアンモニアを産生し、周囲にある強い酸性の胃酸を中和することで胃の中での生息を可能にしています。この検査では採取した組織のpH変化を確かめてピロリ菌感染の有無を間接的に確認します。
鏡検法
採取した組織を顕微鏡で観察してピロリ菌の有無を確認します。
培養法、薬剤感受性試験
採取した組織のピロリ菌を培養して感染の有無を確認します。感染を直接的に証明できる検査であり、菌株の種類を調べる・抗菌薬感受試験を行うなども可能です。また菌株の保存もできます。
胃カメラ検査以外で行う検査
尿素呼気試験(UBT)
呼気である息を採取してそれを調べる検査です。何もしていない状態の呼気と、特殊な尿素を含む薬を服用した後の呼気を採取して検査します。ピロリ菌に感染していると酵素のウレアーゼ活性によって服用した特殊な尿素が特殊な二酸化炭素とアンモニアに分解されますので、その増加率を確認して感染の有無を調べます。胃カメラ検査を用いない検査の中では最も信頼性の高い結果を得られる検査です。
抗体測定法
感染して生じた免疫反応でできた抗体を測定する検査です。唾液、血液、尿などを採取して調べます。
便中抗原測定法
便を採取してピロリ菌抗原の有無を確かめる検査です。
ピロリ菌感染検査の健康保険適用
ピロリ菌感染検査を保険適用で受けるためには、一定の条件があります。以前は、胃カメラ検査を受けて胃十二指腸潰瘍などの指定された疾患が確認された場合となっていましたが、平成25年に適用拡大となり、現在では胃カメラ検査で慢性胃炎と診断された場合もピロリ菌感染検査が保険適用されます。
さらに、胃カメラ検査の際に採取した組織を調べてピロリ菌感染検査陽性の結果が出た場合は、除菌治療も保険適用されます。 この場合の胃カメラ検査は、ピロリ菌外来を受診された場合だけでなく、内科や消化器内科などを受診して受けた場合も対象になります。
半年以内に人間ドックなどで検診として胃カメラ検査を受けた方へ
半年以内に受けた胃カメラ検査で慢性胃炎の診断を受けている場合、ピロリ菌感染検査が保険適用されます。さらにその検査で陽性になった場合、除菌治療も保険適用されます。
ピロリ菌除菌治療
ピロリ菌に感染していても除菌治療に成功することで菌の除去が可能です。除菌治療は2種類の抗生物質とその効果を高める胃酸分泌抑制薬を毎日、1週間服用するという内容です。ただし、除菌治療は失敗することもあり、1回目の除菌治療の成功率は70~80%とされています。
失敗した場合には、抗生物質を1種類変更して2回目の除菌治療が可能です。なお、1回目と2回目の除菌治療を合わせた成功率は97~98%とされています。 ピロリ菌に感染していると慢性的な炎症や潰瘍を繰り返して胃がん発症リスクの高い胃粘膜の萎縮を起こす危険性がありますが、除菌治療に成功すると炎症や潰瘍の再発率が大幅に下がり、胃がんをはじめとした多くの消化器疾患の発症リスクを抑えることができます。
いくつか条件はありますが、ピロリ菌感染検査や、陽性の場合の除菌治療は健康保険適用で受けられますので、気になる症状がある場合にはお気軽にご相談ください。
ピロリ菌除菌治療の保険適用
ピロリ菌の除菌治療は失敗する可能性があります。失敗した場合は、使用する抗生物質を1種類だけ変更し、2回目の除菌治療が可能です。最初の除菌治療を保険適用で受けて失敗した場合、2回目の除菌治療も保険適用されます。
除菌治療の成功率は、1回目70~80%、1回目と2回目を含めると97~98%とされています。 2回目の除菌治療も失敗した場合、3回目の除菌治療も可能ですが保険適用されないので自費診療となります。
ピロリ菌検査・除菌治療が自費になるケース
健康保険適用のピロリ菌感染検査や除菌治療には、胃カメラ検査が必須になっています。胃カメラ検査を受けない場合には、ピロリ菌感染検査と除菌治療のどちらも保険適用で受けることはできません。
また、除菌治療に関しては2回まで健康保険適用で受けられますが、3回目からは保険適用されずに自費診療になります。 さらに、保険適用の除菌治療では使用できる薬にも制限があり、クラリスロマイシン(クラリス)とサワシリン(ペニシリン系抗生剤)以外の抗生物質を使うことはできません。
アレルギーなどにより他の薬を使う必要がある場合も保険適用されずに自費診療となります。
ピロリ菌除菌治療の流れ
胃カメラ検査中に採取した組織を鏡検法で検査してピロリ菌感染の有無を確認します。
陽性の場合には除菌治療が可能になります。
Step1:薬の服用
ピロリ菌を除菌するための抗生物質2種類、そして抗生物質の効果を高める胃酸分泌抑制薬を1週間服用します。
起こる可能性のある副作用
- 味覚異常(約30%)
- 下痢(約13%)
- 蕁麻疹(約5%)
- 肝機能障害(約3%)
上記の副作用が起こった場合、すぐにご連絡ください。
また、蕁麻疹、皮膚や粘膜の腫れ、咳、喘息、息苦しさなどのアレルギー症状を起こした場合、服薬を中止して速やかにご連絡ください。
Step2:除菌判定
除菌が成功したかどうかの結果を正確に判断できるのは、服薬からある程度の期間をおいてからとなっています。当院では、2か月以上経過してから採血による抗体検査で除菌判定を行っています。
1回目の除菌治療は成功率が70~80%であり、成功していた場合、除菌治療は終了となります。 除菌に失敗した場合は、2回目の除菌治療が可能です。
Step3:2回目の除菌治療
抗生剤のクラリスをメトロニダゾール(商品名:フラジール)に変更し、それ以外は1回目と同様の除菌治療を1週間行います。
Step4:2回目の除菌判定
判定も1回目と同様、2か月以上経過してから採血による抗体検査で除菌判定を行っています。 1回目と2回目を合わせた成功率は97~98%であり、ほとんどの方は成功します。成功した場合は除菌治療終了となります。
失敗した場合、3回目の除菌治療が可能ですが、自費診療となります。自費診療では使用できる薬に制限がなくなるなど治療の幅が広がりますので、ご希望される場合にはお気軽にご相談ください。